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2019年1月8日 農業体験で、体験以上のものを得る。福島二本松農園のスタディファームとは?

農業体験とは、頼れる「親戚関係」を増やすこと

現在「農業体験」ばやりとも言えます。農業体験とは、都会の生活から一時離れ、仲間と一緒に自然や豊かさに触れる唯一無二の体験を通して楽しみながら農業について学ぶことです。

農業を楽しんでいただく、ということは、それはそれで素晴らしいことなのですが、場合によっては、もっと体験以上のものを得られることもあります。それは「日本の農業の現状を知ることができる」「第二のふるさとを見つけることができる」「農家と親戚のようにつきあう事ができる」ひいては「震災の時の避難先を確保出来る」などです。

農家と一緒に農作業をするということは、楽しい反面、「こんなにも大変なのか」とか「こんなに苦労しているのに農産物の価格はこんなにも安い」などの発見につながるのです。なので、農作業を経験すると、八百屋さんやスーパーで売っている野菜の見方も変わってくると思います。

また、私たちの二本松農園で農作業を経験した、東京都中野区のあるファミリーは、毎年定期的に来るようになり、3回目あたりから「二本松農園が第二のふるさとだと思うようになった。」という言葉をいただきました。これは受入側にとっても、とてもうれしいことで、こうなると、こちらとしても、なぜかこのファミリーが「親戚」のように思えてくるのです。親戚であれば、もし東京に南海トラフが襲ったとしても、二本松農園に避難して暮らせば良い、というような事まで考えられるようになります。

結局、農業体験には、このレベルまで高まる可能性があるのです。もしかしたら究極の「防災」は、田舎の農家に避難する先を見つけることなのかも知れません。

二本松農園が主催する「スタディファーム」とは?

福島県では東日本大震災による放射能被害があったこともあり、農家がどのように影響を受けてどのように放射能対策に取り組んできたのかを現場でご説明させていただいています。
それが、5年前から二本松農園で行っている「スタディファーム」です。

2017年度は年間1400人あまりの視察者受入を行い、放射能対策について詳しくご説明させていただきました。この中で、説明が終わったら、時期に応じて、きゅうりもぎとり体験をしていただいたり、野菜の種を畑にまいていただいたり、稲刈りをしていただいたりしています。これは、本当、楽しみながら、という感じですね。

プランとしては、午前中にスタディファームを体験し、昼食は農園の中でバーベキュー、午後、農業体験をして日帰りで東京に帰ることもできますが、宿泊したい場合は、仲間の「農家民宿」を紹介することもできます。

法人に人気の農作業体験も

また、実は結構大企業の方から「社員に農作業体験をさせたい。」という要望が寄せられます。もちろん基本的にはお受けしているのですが、これに対して農家の立場から本音を申し上げます。
農家側にとって基本的にありがたいお話しなのですが、農家は限られた人数でギリギリの状態で日々営農を行っているので、できれば次のような目的を明確にしていただければありがたいと思います。

  • (1)「自然に親しむ」という社員のリフレッシュが目的なのか
  • (2)農家を応援したいのか
  • (3)農業体験をすることによって、何らかの自社ビジネスに結び付けたいと思っているのか
  • (4)単発のイベント的なものなのか、あるいは継続的なのか
  • (5)あまり、難しく考えるのではなく、なんとなく農業体験をしてみたいのか・・・それはそれでOKです。
  • これらのどれに該当するかによって、農家側として、どんな農作業をやっていただくか、ということを決めることになります。どうせ来ていただくなら、100%目的を達成して帰っていただきたいと考えております。

    実は農家はプロとして農業を行っていますので、年間計画をたてそれに応じてスタッフを雇用していますので、基本的に人出不足はあまりありません。さらに、作物は農家にとって命ですので、それを素人にさわらせる、ということは実はあまりしたくないものです。
    しかし、計画的に作業をやっていても、天候によってそれはくるってくることがありますし、「苗の植え付け」や「収穫」のときなどは、スタッフだけだと苦労するという時はたしかにあります。結局、農家では、このような時「お手伝い」いただくと非常に助かる、ということになります。

    なので、農家にとってありがたいのは、1年ぐらい前に全体的な農業体験の計画を、農家と相談しながらたて、1ケ月ぐらい前に具体的な日にちと人数を決めるのがベストです。

    以上は、主に畑での野菜の植え付け・収穫の農作業体験の例ですが、水田(稲作)の場合は、もうちょっと時間に幅があります。たとえば、大きな稲作農家ですと、春の田植え、あるいは秋の稲刈りは、1ケ月ぐらい続くことがありますので、スケジュールを組みやすい、農業体験の日程を組みやすい、ということがあります。この場合、テレビなどで、よく「田んぼに入って手で苗を植える」とか「カマをもって1株ずつ稲刈」などの光景が紹介されることがありますが、現実的には、今農家で、手で田植えをするとか、カマで稲刈りを行う、ということはほとんどありませんので、このような事はイベントとしてはいいのですが、農家の労働的な面から言えば、あまり貢献するものではありません。

    なので、二本松農園などでは実際農業現場で行っている「田植え機を使っての田植え」とか「コンバインを使っての稲刈り」なども安全に注意しながら行っていただいています。これは、なかなか体験できることではないので、参加者の方には非常に喜んでいただいています。

    本当に歓びを感じる農業体験とは

    このように農家と一緒の農業体験は、結局農家の言われるがまま、という感じなのですが、自分達の自主性と達成感があるのは、たとえば・・・使われていない休耕田をみんなで開墾し、その水田にみんなで田植えをし、除草剤を使わない有機栽培にチャレンジするために毎週のように手で雑草をとり、秋になってようやく稲刈りをし、その米でお酒をつくり(蔵元にお願いして)、みんなで飲んで達成感を味わう、というようなメニューです。

    また、農家にとって本当にありがたい事と言えば、たとえば、農業生産法人は別として、今はどこの「個人農家」も高齢化していますので、野菜をたくさんつくりたいと思っても、植え付けや収穫に苦労してしまい、結局あきらめざるを得ない、という状況がたくさんあります。このような農家には、やはり良く話しをし、年間でどの時期が人の手が必要なのか、ピンポイントでこの「日」に手伝って欲しい、という日を特定し手伝うと、その農家から非常に喜ばれます。

    結局、前にも書いたとおり、その農業体験をどんな目的で行うのか、と農家側のニーズが合致していれば双方よりよい経験となるのです。

    実際に体験された方の感想で嬉しかったこと

    実際に農業体験に来ていただいた方の中で、このような嬉しいことを言っていただいたこともございます。

    前にも書いたとおり「二本松農園が第二のふるさと」と言っていただいた時は、最高にうれしかった事です。その後、このファミリーには、定期的に福島県の農産物を首都圏で販売までしていただいています。また、スタディファームに参加した方から「放射能の農業への影響は、東京では良く分からなかったが、二本松農園の現場で聞いたらよ~く分かった。全国の人たちにスタディファームに参加してもらったら風評被害なんてなくなる。」と言われた時もうれしかったですね。

    企業の方でいうと、2018年の初冬に東京の大企業の社員の皆さん約50人で、「田んぼからワラを運んでもらい、乾燥のために立てかける」という地味(?)な農作業をしてもらったのですが、東京に帰ってから何回も「私たちの立てたワラ、まだ倒れていませんか?ちゃんと立っていますか?」というメールをいただきました。私たちにとっては、ワラを立てる、という単純な作業なのですが、初めて農作業を体験した人にとっては、いわるゆ「完成の喜び」があるんだなあ、という発見でした。

    心の復興を目指すために、農業体験を

    農業体験について、農家側の立場から率直に書かせていただきました。

    都会の方など農業に携わったことのない方にとっては初めての内容であったかもしれません。ただ、基本的に、これからの時代は、消費者と農業者が共に農業体験をするということは、相互理解、その後の「つながり」でとても良いことですので、二本松農園としては welcomeです。また、企業の社員のリフレッシュや組織力UPにも良いのではないでしょうか。

    東日本大震災の復興のためには、どんなに高いスーパー堤防をつくっても、住宅地をかさ上げしても・・・本当の意味での復興にはならないと思います。復興とは「心の復興」でなければならず、そのためには、人口減少した、特に福島県の被災地では、都市と農村との「交流人口」を増やすことが必要で、これの一番の手法は「農業体験」「農家との交流」ではないでしょうか。
    農業体験を通じて「親戚関係」を増やすこと、これが、私にとって一番の希望だと言えます。

    農業体験のご希望がございましたら人数に関わらずこちらからお気軽にお問い合わせください。
    二本松農園でみなさまに会える日を楽しみにしています。

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